第23回文化庁メディア芸術祭で666作品の中から漫画部門「優秀賞」を獲得した野田彩子作『ダブル』。
2020年の3/14に2巻が発売されたので早速、1巻、2巻ともに買って読んでみました。
結論はこちら
演劇好きなら『ダブル』をよむべき。
読み出したのもつかの間、休憩する間も無くあっという間に読み終えてしまいました。
なぜ『ダブル』がこんなにも面白いのか。その面白さはこの3つだと感じます。
私が『ダブル』を強くオススメする理由3つ
主人公2人のなんとも言えない関係。
普通、主人公は一人ですが、この「ダブル」の場合、天才役者「宝田」とその友人「友仁」も主人公と呼べるくらい魅力的な人物です。
注目して欲しいのがこの二人の関係性。
「宝田」は、「友仁」を尊敬していて全ての演技プランを「友仁」の言う通りにするほど、依存しています。
「友仁」は「宝田」の天才的な演技センスに惹かれており、彼のずさんな生活態度などを全て援助するなどの面倒みの良さを見せます。
この関係、最初読んだときは、うっすらといわゆる「BL」の感じをどことなく出していて、
「そういう層が好きなのかなあ。」
と考えていましたが、実はそう言うわけでもない様子。
この二人、お互い依存しつつも、お互いのためにと距離を保とうともするのです。
もちろん、簡単にそういくはずもなく、二人の心理的な葛藤が説明されるまでもなく、絵で伝わってくるのです。
さらに、何が魅力的かというと、この二人の関係性は、捉えられているようで全く捉えられないところにあります。
この二人は単なる依存関係なのか、はたまたBL的恋愛関係なのか。それとももっと深い理由で一緒にいるのか。
その関係性が揺らいでいくので、想像力が常に膨らんでいきます。
2巻読み終わった私は、もはや「友仁」が「宝田」のいわゆる「イマジナリーフレンド」なんではないかと憶説するほどでした。
「二人の関係性」ぜひ、これに着目して読んでみてください!
散りばめられた演劇のセリフ
やはり舞台俳優の物語だけあって、演劇の要素がしっかりとあります。
冒頭からシェイクスピアのセリフを引用するなど、演劇ファンならテンションが上がります。
それ以降も、チェーホフの『3人姉妹』やおそらく後藤ひろひとさんの『人間風車』といった細かい演劇的要素を拾っていけるので、細部まで目が離せなくなります。
さらに、目次につけられた小タイトル(小見出し)にも注目してほしいです。それぞれのシーンに合わせて有名な戯曲のタイトルがつけられています。
以下に2巻までの一覧をあげておきます。
みなさんはいくつ知っていますか?
1幕 |
お気に召すまま |
ウィリアム・シェイクスピアの戯曲 |
2幕 |
しあわせな日々 |
サミュエル・ベケットの戯曲 |
3幕 |
出口なし |
サルトルの戯曲 |
4幕 |
ファウスト |
ゲーテの戯曲 |
5幕 |
半神 |
野田秀樹の戯曲 |
6幕 |
オンディーヌ |
ジャン・ジロドゥの戯曲 |
7幕 |
キネマの天地 |
井上ひさしの戯曲。 |
8幕 |
人形の家 |
ヘンリック・イプセンの戯曲 |
9幕 |
じゃじゃ馬馴らし |
ウィリアム・シェイクスピアの戯曲 |
10幕 |
三人姉妹 |
アントン・チェーホフの戯曲 |
11幕 |
血は立ったまま眠っている |
寺山修司の戯曲 |
12幕 |
ぼくらが非情の大河をくだる時 |
清水 邦夫の戯曲 |
13幕 |
ぼくらは生まれ変わった木の葉のように |
清水 邦夫の戯曲 |
しかもこれのすごいところは、全部かどうかは確認できていませんが、どことなく内容と戯曲の中身の光景が一致しているのですね。
戯曲を結構読んだことのある人なら、「ああ〜」となるシーンがいくつかあることでしょう。
演劇の本質に迫れる
オススメする理由3つ目は、演劇の本質に迫れることです。
というのも、この作品、舞台ではなく主人公がドラマや映画に出演したりと、結構演劇から離れてはいるのですが、それでも舞台でどう俳優はあるべきかという演技論や、演出(監督)とはどうあるべきかといった演出論といった演劇論というようなテーマを突き出されているような気になります。
例えば、1巻で、脚本を変にアレンジしようとしたドラマ監督の言うことに納得のいかない主人公「宝田」が、監督の言うことを聞かず、自分とその友人「友仁」の役作りを貫いてOKをもらうシーンがありました。
そもそも脚本をドラマのために余分な演出を加える監督の姿が正しいのか、正しくないのか。
そして、作品全体の方向性を決めるはずの監督の言うことをきかない役者ってどうなの?
役になりきった「自然」な演技が本当にいい芝居なの?
というように本筋に関係しないような部分でも、演劇とは?という問いを投げかけられているような気に私はなりました。
おそらく、演劇を長くしている人はもっといろんな問いを感じながら読むことができるでしょう。
それも、この作品の一つの意義なような気がします。
2巻でも、映画監督と俳優の対立するシーンがありました。どっちが正しいか。それは、今の実際の現場でもはっきりしていない問題なのだから、きっと漫画作品においても答えの出ない問いなのかもしれません。それでも作者 野田彩子さんの織りなすストーリーに目が離せません。
こんな人は読むべき
演劇やっている人!
これからやろうと思っている人!
演劇をやっていた人!
まあ、当然、演劇に関わっている人、いた人全ての人に読んで欲しい作品です。
そして、作画の技術もストーリーもとてもいいので、演劇をこれまでしていない人が、この漫画から演劇に興味をもってくれればいいなと思っています。
こんな人には苦手かも
とはいえ、やはり苦手に感じる人もいるかもしれません
・BLが苦手な人
誤解されないように言っておくと、この漫画「ダブル」はいわゆる”BL”の作品ではありません。しかしながら男性キャラクターどうしの距離感が近いのは事実です。そういうのが苦手な人がいるとしたらやめておく方がいいかもしれません。
まとめ
私が野田彩子さんの「ダブル」をおすすめする理由は、
① 主人公2人のなんとも言えない関係がいい!
② 散りばめられた演劇の要素を拾うのが楽しい!
③ 演劇の本質に迫れる
です。
演劇が好きな人もそうでない人も一度は読んで欲しい作品です。