岸田國士戯曲賞とは?受賞作まとめ【2024年版】

岸田國士戯曲賞とは?

岸田國士戯曲賞とは演劇界の芥川賞とも言われる劇作家であれば必ず憧れる賞です。

そんな名誉ある「岸田國士戯曲賞」ですが、どういう経緯で設立された賞かご存知ですか?

今回はそんな岸田國士戯曲賞について、岸田國士戯曲賞の概要から岸田國士氏の人物像、これまでに岸田國士戯曲賞を受賞した主要な作品まで紹介していきます。

目次

今年で68回目!岸田國士戯曲賞とは(2024年時点)

岸田國士戯曲賞とは劇作家であった岸田國士氏をたたえると共に、若手の劇作家を育成する目的の下、毎年白水社が開催しています。

新人劇作家の登竜門とされる岸田國士戯曲賞ですが、界隈では「演劇界の芥川賞」という異名で呼ばれることもあります。

そんな岸田國士戯曲賞は1955年に創設された新劇作賞にルーツをもち、1961年に新潮社が主催していた岸田演劇賞を吸収して「新劇」岸田戯曲賞となり、1979年に現在の名称に改称されました。

そして岸田國士戯曲賞は今年(2024年)で68回目を迎えることとなったのです。

岸田國士とはどういう人物?

出典 : 岸田國士「紙風船」 演劇は日常会話で作れる | 好書日書

岸田國士氏は1890年に東京に生まれ、劇作家としての道を歩む前は実は軍人でした。

軍を離れるとフランス文学や近代演劇を学び、パリへも留学し、留学中にはヴィユ・コロンビエ座にも頻繁に訪れていました

日常的な言葉遣いを使いながらも鋭く描写することで知られたジュール・ルナールの作品「にんじん」などの作品を日本語に訳したのも実は岸田國士なのです。

留学を終えると日本での活動を活発化させますが、実は劇作家であると共に小説家でもありました。

小説では「暖流」などといった作品を世に出しています。

演劇ではというと、1937年に劇団文学座を創設しました。

また、「牛山ホテル」、「紙風船」、「チロルの秋」など数々の作品を出し、日本を代表する演劇界の巨匠の1人として君臨しました。

1954年に生涯を閉じると、翌年には新劇作賞が始まることとなったのです。

直近10年間の受賞作品を紹介!

岸田國士戯曲賞やその由来となった岸田國士の人物像について紹介したところで、今度は実際にどのような作品が岸田國士戯曲賞を受賞したのか見ていきましょう。

今回は直近10年間(2014年~2024年、第58回~第68回)の岸田國士戯曲賞受賞作品を見ていきます。

ただし、第65回岸田國士戯曲賞では受賞作品がなかったため、第65回については省略させていただきます。

最初に、こちらが2014年~2024年の岸田國士戯曲賞受賞作品の一覧になります。

年度受賞作劇作家
第58回2014年ブルーシート飴屋法水
第59回2015年トロワグロ山内ケンジ
第60回2016年地獄谷温泉 無明ノ宿タニノクロウ
第61回2017年来てけつかるべき新世界上田誠
第62回2018年バルパライソの長い坂をくだる話、あたらしいエクスプロージョン神里雄大、福原充則
第63回2019年山山松原俊太郎
第64回2020年バッコスの信女―ホルスタインの雌、福島三部作市原佐都子、谷賢一
第65回2021年該当なし
第66回2022年柔らかく搖れる、バナナの花は食べられる福名理穂、山本卓卓
第67回2023年ドードーが落下する、パチンコ(上)加藤拓也、金山寿甲
第68回2024年ハートランド池田亮
2014年~2024年の岸田國士戯曲賞受賞作品

それでは具体的に一作品ずつ、岸田國士戯曲賞受賞作品について紹介いたします!

ブルーシート(第58回受賞作品)

「ブルーシート」は飴屋法水さんによって手掛けられた作品で、福島県いわき市の高校生と共同で作られました。

本作では東日本大震災に見舞われた高校生10人の物語を描いていきます。

審査員からは「易しい言葉で高校生たちが目にした死体を鮮烈に描写すると共に、高校生たちの生きる意志を称えている。」と評価されました。

飴屋法水さんは他にも「教室」、「転校生」、「3人いる!」などの作品を手掛けました。

トロワグロ(第59回受賞作品)

「トロワグロ」は山内ケンジさんによって手掛けられた作品です。

本作では色白の美人をめぐる歪でゆがんだ人間模様を官能的かつなごやかにエロティックな要素とグロテスクな要素を取り入れながらコメディー調で描いていきます。

審査員からは「人間を細かく見つめるところが独自性を生んでおり、人間の浅ましさを描く本作は芝居をする必然性を見せてくれる。その意味で極めて演劇的な作品。」と評価されています。

山内ケンジさんは劇団「城山羊の会」に所属しており、他にも「効率の優先」、「身の引き締まる思い」、「メガネ夫妻のイスタンブール旅行記」、「葡萄と密会」などの作品を手掛けました。

地獄谷温泉 無明ノ宿(第60回受賞作品)

「地獄谷温泉 無明ノ宿」はタニノクロウさんによって手掛けられた作品です。

本作ではかつて噴火に見舞われた場所で人形遣いの親子が謎の依頼状を持って迷い込むところからストーリーがはじまります。

審査員からは「肉体を持たないものが闇から迫ってくる」と評価されました。

タニノクロウさんは「庭劇団ペニノ」に所属しており、他にも「大きなトランクの中の箱」などの作品を手掛けました。

来てけつかるべき新世界(第61回受賞作品)

「来てけつかるべき新世界」は上田誠さんによって手掛けられた作品です。

本作では大阪の新世界を舞台に、新世界のおっさんやおばはんたちに文字通りの「新世界」がやってくる様をSFコメディで描いています。

審査員からは「従来の軽演劇かと思いきややがて訪れる人工知能に翻弄される庶民の様子を笑いに変えて展開していくところが見事。」と評価されています。

上田誠さんは劇団「ヨーロッパ企画」に所属しており、他にも「曲がれ!スプーン」や「サマータイムマシン・ブルース」などを手掛けました。

バルパライソの長い坂をくだる話(第62回受賞作品)

「バルパライソの長い坂をくだる話」は神里雄大さんによって手掛けられた作品です。

本作ではパラグアイ、アルゼンチン、チリ、ペルー、沖縄、小笠原の父島を舞台に国境を越えた移民目線で語られながらストーリーは進行していきます。

審査員からは「パタゴニア、沖縄、父島と語られる世界の広さと位置が興味深い作品だ。また、演劇を疑う態度そのものが演劇への強力な応答になっている。」と評価されました。

神里雄大さんは劇団「岡崎藝術座」に所属しており、他にも「イスラ!イスラ!イスラ!」、「+51 アビアシオン, サンボルハ」、「(飲めない人のための)ブラックコーヒー」などを手掛けました。

あたらしいエクスプロージョン(第62回受賞作品)

「あたらしいエクスプロージョン」は福原充則さんによって手掛けられた作品で、先述の作品と共に岸田國士戯曲賞を受賞しました。

本作では終戦直後にカメラもフィルムもない状態で日本の映画史上初のキスシーンを撮るべく、映画人が奮闘する物語を描いています。

審査員からは「深刻でない作品を作るのは難しい。その中でも本作はセリフの巧みさで深刻でないけれども気恥ずかしくない作品にもなっており、創る者を励ましてくれている。」と評価されました。

福原充則さんは劇団「ピチチ5」と「ベッド&メイキングス」に所属して活動しています。

山山(第63回受賞作品)

松原俊太郎さんの手掛けた作品で、美しい山の麓で暮らす家族が「かつて美しかった山」と「汚染物質の山」の狭間で抗う姿を描いています。

「それでお前は何をしたくないんだ?」に問われるように家族はせずにすめば良いものに晒される姿を描いており、作品の背景には3.11があると本作の中で語られています。

審査員からは「圧倒的に強い言葉で我々の置かれた現状を見事演劇という形で抽象化した。」と評価されました。

松原俊太郎さんは他にも「忘れる日本人」、「正面には気をつけろ」、「カオラマ」などを手掛けました。

バッコスの信女―ホルスタインの雌(第64回受賞作品)

市原佐都子さんが手掛けた作品で、本作品はなんと古代ギリシャ劇の形式を使っています。

本作品ではエウリピデスのギリシャ悲劇を大胆に解釈し、主婦、獣人、乳牛の霊魂たちの合唱隊が激しく踊りまわる会話劇でストーリーは進行していきます。

審査員からは「1人の主婦に焦点をあて、その性を古代ギリシャ劇の形式で表現されており、本作の会話、小道具など全ての要素が演劇の面白さを伝えていた」と評価されました。

市原佐都子さんは本作の他に「毛美子不毛話」、「妖精の問題」、「地底の妖精」などがあります。

福島三部作(第64回受賞作品)

谷賢一さんが手掛けた「福島三部作」も先述の作品と共に岸田國士戯曲賞を受賞しました。

福島三部作は「1961年:夜に昇る太陽」、「1986年:メビウスの輪」、「2011年:語られたがる言葉たち」で構成されています。

その流れの中で未来を夢見て原発を誘致した1961年から東日本大震災で被災し、日本史上最悪の原発事故を引き起こした2011年までを描いていきます。

審査員からは「1961年の未来への明るい眼差しは2011年に封じられた。観客席にそのまま突きつけるそれは良心の居心地を悪くする作品である。今後の50年を見据えた第4部をぜひ作っていただきたい。」と評価されました。

谷賢一さんは劇団「DULL-COLORED POP」に所属しており、他にも「マクベス」などを手掛けました。

なお、谷賢一さんは乃木坂46の「3人のプリンシパル/3人でやるロミオとジュリエット」の翻案、演出を手掛けたことでも知られています。

柔らかく搖れる(第66回受賞作品)

劇団「ぱぷりか」の福名理穂さんが手掛けた作品で、とある広島に住む家族を広島弁を多用しながら巧みに演じる現代口語演劇です。

川の音を使いながら地方都市の家族が「田舎の閉塞感」に溺れながら流れていく一生を描いています。

審査員からは地方都市のとある一家が怠惰な一生を送る様を簡単なセリフで見事に演じたと評価されました。

この作品は好評を受けて受賞した翌年に再公演されているほか、書籍でも読むことができます。

なお、福名理穂さんが他に手掛けた作品として他に「きっぽ」などがあります。

バナナの花は食べられる(第66回受賞作品)

先述の「柔らかく搖れる」と共に受賞を果たした作品で、山本卓卓さんによって手掛けられました。

この作品はコロナ禍の中で活動が制限される中、「向こう側の演劇」としてオンラインで作品を発表し、その連作の中にあった「バナナの花」が後の「バナナの花は食べられる」となりました。

主人公は探偵業を行いますが、登場人物は主人公を含めて皆アウトローといっても差し支えないのですが、そんな彼らがつながり、失敗し、やがては悲劇へと繋がっていく作品になっています。

審査員からはアウトローな彼らの連帯に涙させられ、興奮したと評価されました。

山本卓卓さんは劇団「演劇集団範宙遊泳」でこれまでに「幼女X」、「うまれてないからまだしねない」、「心の声など聞こえるか」などの作品を手掛けました。

ドードーが落下する(第67回受賞作品)

劇団た組の加藤拓也さんによって手掛けられた作品で、なんとも不気味なテイストが特徴です。

意味深な言葉を残して失踪したものの、「とある事情」で警察病院にいる人物と、それを巡って人間関係が豹変していく友人同士の物語を描いています。

審査員からは登場人物の1人について、「落ちていく芸人という立場でありながら異様に明るいのが怖い。その不気味な明るさは行為の不気味さを生んでいて秀逸」と評価しています。

加藤拓也さんは他に「ぽに」や「もはやしずか」などといった作品も手掛けました。

パチンコ(上)(第67回受賞作品)

劇団「東葛スポーツ」の金山寿甲さんによって手掛けられた作品で、前述の「ドードーが落下する」と共に岸田國士戯曲賞受賞を果たしました。

この作品ではパチンコ屋を家業とする在日コリアン3世の人生を描いていきます。

ヒップホップ演劇なのも特徴的で、審査員からは「少数派を弱者として扱わせない覚悟が見えた」や、「自らの生まれ育った場所からのカウンターストーリーを生み出そうとする野心、そしてストリート感が感じられた」などといった評価がなされています。

金山寿甲さんは他にも「A-②活動の継続・再開のための公演」なども手掛けました。

ハートランド(第68回受賞作品)

直近となる第68回岸田國士戯曲賞では池田亮さんが手掛ける「ハートランド」が岸田國士戯曲賞を受賞しました。

ハートランドでは山奥の駆け込み寺のようなコミュニティを舞台にストーリーは進行していきます。

審査員からは「社会的弱者とされる人が仮想世界や技術によって新しい居場所で生かされる一方で、現実世界に固執する人が昔ながらの苦しみに晒される様を現実世界を描き出している。描写は軽妙でありながら強度がある。」と評価されています。

池田亮さんは劇団「ゆうめい」に所属しており、本作の他に「弟兄」、「姿」、「娘」などを手掛けました。

岸田國士戯曲賞の応募資格は?

ここまで岸田國士戯曲賞やその受賞作品について紹介してきましたが、読者の中には応募資格が気になっている方もいるのではないでしょうか。

岸田國士戯曲賞に応募するにあたり、原則として条件が2点(2点のいずれかに該当)あります。

1点目は1年間で雑誌発表されたこと、または2点目の単行本にて活字化されていることです。

つまり、1年間で活字化されていることが必須条件になりますが、生原稿や台本だけの状態はこれに含まれません。

ただし、例外規定もあります。

例外としてこれまでに画期的な上演成果を遂げており、かつ選考委員等から推薦を受ければ生原稿、台本の状態であっても応募できるというものです。

岸田國士戯曲賞を受賞した作品はどれも個性派揃い!

今回は岸田國士戯曲賞の概要から岸田國士氏の人物像、岸田國士戯曲賞受賞作品(過去10年間)について見てきました。

岸田國士戯曲賞を受賞した作品はどれも個性派揃いで、東日本大震災を題材にした作品も複数あったのが印象的でした。

今回紹介した岸田國士戯曲賞受賞作で気になる作品はありましたか?

あればぜひ、その作品を見てみてはいかがでしょうか。

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