「台本」「脚本」「戯曲」の違いは?

演劇の世界にいると必ず耳にすることになる3つのキーワードがあります。

1つは「台本」、2つは「脚本」、3つは「戯曲」です。

いずれの3つのキーワードも同じ意味を持つように見えるかもしれませんが、実は全くそんなことはありません。

「台本」、「脚本」、「戯曲」の3つのキーワードの違いを正しく理解して演劇の世界をしっかり身につけましょう!

目次

「台本」「脚本」「戯曲」は違うの?

「台本」「脚本」「戯曲」、これら3つの用語は一見すると違いがあるようにはみえないかもしれませんが、違いはもちろんあります。

具体的な違いは後ほど各個説明しますが、「台本」「脚本」「戯曲」の3つの用語にはそれぞれ目的と役割が課されており、明確に役割分担されています。

次項からは「台本」「脚本」「戯曲」について説明していきますので、それぞれどのような役割を担っているのかを注目しながら読むと理解しやすくなるでしょう。

「台本」とは

まずは役者にとって欠かせない「台本」について見ていきましょう。

「台本」とは演劇などの上演を目的とし、役者に向けてセリフとト書き(背景や心理)が書かれた本のことを指します。

演劇に限ったことではありませんが、役者の「セリフなどを覚える」行為をするためにも欠かせないのがセリフやト書きの書かれた「台本」なのです。

さて、この時点ですでに脚本と混同してしまう人もいますが、脚本には別の役割があります。

次は脚本について整理していきましょう。

「脚本」とは

今回紹介する3つのキーワードの中で最も混同されがちなのが「台本」と「脚本」ではないでしょうか。

「台本」は先述したように、役者に向けてセリフやト書きが書かれたもののことを指しています。

それでは「脚本」とは何なのでしょうか。

「脚本」の場合、役者が対象だった「台本」に対してここでは監督やスタッフが対象となります。

演劇などの上演を目的に監督やスタッフなどに向けてセリフやト書きに加え、舞台装置などについて詳細を書かれた本が「脚本」となります。

そのため、「脚本」は舞台作品を制作するために作品の設計図としての役割を担っていると言っても過言ではありません。

また、「脚本」の中におけるシーンの書かれ方も特徴的です。

「台本」ではセリフやト書きを時系列で並べるように書いていきますが、「脚本」ではシーンの全体像が分かるような客観的な書かれ方をしています。

これも「脚本」が舞台作品の設計図と言われる所以ですね。

ところで「戯曲」についてはどんな役割を果たしているのでしょうか?

次項で見ていきましょう。

「戯曲」とは?

さて、3つ目の用語「戯曲」について見ていきましょう。

戯曲は演劇を目的としてセリフやト書きを書かれた本、と解釈すると先述した「台本」と特段違いがないように見えます。

しかし、戯曲と台本には大きな違いが1つあります。

それは「文学作品」としての体をなしているかどうかということです。

「台本」はあくまでも役者がセリフや演技を覚えるための本ですが、「戯曲」はセリフやト書きの入った「文学作品」の体をなした本となっています。

シェイクスピアの「ロミオとジュリエット」も代表的な戯曲の1つですね。

「台本」「脚本」「戯曲」の違いを整理しよう

さて、これまでの流れを踏まえて改めて「台本」「脚本」「戯曲」の違いについて下記のリストで改めて整理していきましょう。

台本・脚本・戯曲のちがい
  • 「台本」は上演を目的に役者が演技を覚えられるにセリフやト書きの入った本
  • 「脚本」は上演を目的として監督やスタッフ向けにセリフやト書き、シーンの背景などが詳細に書かれた本
  • 「戯曲」は上演を目的としてセリフやト書きを「文学作品」としての体裁で書かれた本

誰に向けて書かれているかという視点では役者に向けて書いているのが「台本」、監督やスタッフに向けて書かれているのが「脚本」と区別できます。

また、「台本「脚本」「戯曲」の中でただ1つ「文学作品」としての体をなしているのが「戯曲」だと覚えておくと違いを理解しやすくなるでしょう。

脚本賞まとめ

これまで「台本」「脚本」「戯曲」の違いについて整理してきましたが、ここからは各種に関係のある賞について紹介していきます。

まず見ていくのは演劇の設計図ともいえる「脚本」の賞です。

「脚本」については演劇に限らず、ラジオドラマ、テレビドラマ、映画、アニメなど多岐にわたるテーマで賞が設定されています。

演劇については限定的ではありましたが「脚本」に特化した賞もありましたので参考になれば嬉しいです。

脚本募集事業(公益財団法人 日本演劇興行協会)

公益財団法人日本演劇興行協会が新人脚本家育成への助成を目的に脚本募集事業が行われています。

脚本募集事業は平成元年(1989年)から始まり、3年から5年程度の頻度で開催されています。

脚本募集事業ではこれまでの開催回で最優秀作品としてノミネートされた作品はまだありませんが、これまでに10作品が優秀作品としてノミネートされました。

直近の開催回は令和3年度(2021年)の第8回脚本募集事業で、第8回脚本募集事業では篠崎隆雄さんの「深川永代戻り橋」が優秀作品としてノミネートされました。

脚本募集事業の詳細についてはこちらのリンクからご確認ください。

子どもが上演する劇 脚本募集(一般社団法人 日本演劇教育連盟)

一般社団法人日本演劇教育連盟は演劇教育の研究と実践を行っている団体です。

日本演劇教育連盟は雑誌「演劇と教育」の発行、指導者養成講座の実施、そして脚本募集事業を行っています。

日本演劇教育連盟では「子どもが上演する劇 脚本募集」事業が毎年行われています。

直近の開催回である2024年脚本募集事業ではNPO法人演劇百貨店所属の柏木陽さんの「シンコペーション」と小川真由さん(高校生)の「チップス」が入選しました。

次回は2025年開催で、詳細な募集要項は2025年1月頃に公開される予定です。

日本演劇連盟の脚本募集事業ではプロ・アマ、もっといえば学生であっても応募できるので、興味があればぜひ挑戦してみてはいかがでしょうか。

日本演劇連盟の脚本募集事業の詳細についてはこちらのリンクから確認できます。

舞台脚本コンクール(シナリオセンター)

今年は開催がありませんでしたが、2023年はシナリオセンターが主催する舞台脚本コンクールがありました。

シナリオセンターはいわばシナリオライター養成スクールで、シナリオ作家養成講座などを手掛けています。

舞台脚本コンクールも劇団青年座との協力で実施しており、応募資格は特にありません。

直近に開催のあった2023年の回では街の樹さんの「予光」と越智良智さんの「明日、花火が上がる」が優秀賞としてノミネートされました。

次回の開催については未定ですが、直近に開催された舞台脚本コンクールの応募要項についてはこちらのリンクから確認できますので、参考までにご参照ください。

歌舞伎脚本募集(国立劇場)

国立劇場では歌舞伎振興を目的として定期的に歌舞伎脚本募集事業が行われています。

直近では令和5・6年度歌舞伎脚本募集事業の応募が締め切られ(2024年10月現在)、令和7年(2025年)3月に入賞作品が発表されます。

歌舞伎脚本募集事業は一般から広く受け付けるため、この機会に演劇の中でも特に歌舞伎に興味があるという方、歌舞伎脚本に挑戦してみたいという方におかれましてはぜひチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

国立劇場の歌舞伎脚本募集事業の詳細についてはこちらのリンクから確認できます。

戯曲賞まとめ

これまで「台本」「脚本」「戯曲」の違いを整理した上で、「脚本」ではどのような賞に挑戦できるのか紹介してきました。

「脚本」に焦点を置いた賞は限定的でしたが、「戯曲」となると事情は大きく変わります。

「戯曲」については日本各地でたくさんの賞があるため、「戯曲」に挑戦してみたいという方はぜひこのコーナーを参考にしていただければ幸いです。

新人戯曲賞(日本劇作家協会)

新人戯曲賞は日本劇作家協会が1995年から毎年開催している戯曲賞です。

新人戯曲賞はその名前にもある通り「新人」劇作家の登竜門となるべく設立された戯曲賞で今年で第30回を迎えました。

第30回新人戯曲賞については現在審査中ですので続報が待たれますが、その前の回となる第29回新人戯曲賞では海路さんの「檸檬」が受賞を果たしました。

新人戯曲賞の詳細については以前の記事で紹介していますので、新人戯曲賞の応募資格、受賞作品の動向などについて解説していますので、そちらから確認できます。

岸田國士戯曲賞(白水社)

新人劇作家の登竜門となるのは先述した新人戯曲賞だけにとどまりません。

日本を代表する劇作家であった故岸田國士氏の功績を称えて設立された「岸田國士戯曲賞」は若手劇作家の育成を目的に1955年から長い歴史を誇っています。

歴史が長いだけでなく、「演劇界の芥川賞」という異名もついており、劇作家であれば誰もが憧れる賞です。

そんな岸田國士戯曲賞は今年で第68回を迎え、第68回岸田國士戯曲賞では池田亮さんの「ハートランド」が受賞を果たしました。

岸田國士戯曲賞の詳細については以前の記事で応募資格、受賞作品の動向について解説していますのでそちらから確認できます。

「日本の劇」戯曲賞(日本劇団協議会)

「日本の劇」戯曲賞は日本劇団協議会によって毎年開催されている戯曲賞です。

主催団体となっている日本劇団協議会は主として現代演劇の振興を目的としており、主な事業の中に「日本の劇」戯曲賞があります。

「日本の劇」戯曲賞は未発表のものであれば誰でも応募可能です。

直近では「日本の劇」戯曲賞2024において受賞作品の審査が行われているところです。

その前の回となる2023年の「日本の劇」戯曲賞では最優秀賞の受賞はなく、佳作として新井孔央さんの「杳たる月」がノミネートされました。

なお、直近で最優秀賞の受賞があったのは2022年の「日本の劇」戯曲賞で、竹田モモコさんの「他人」がノミネートされました。

「日本の劇」戯曲賞の詳細についてはこちらのリンクから確認できます。

エコラボ創作戯曲募集(テアトル・エコー)

テアトル・エコーは喜劇やコメディの分野を専門としている劇団で、「エコラボ創作戯曲募集」の「エコラボ」は「エコーの研究室」という意味合いが込められています。

「エコラボ創作戯曲募集」が他の戯曲賞と異なるのはこの戯曲賞は作品の完成度を競うだけに留まらない点です。

「エコラボ創作戯曲募集」では長ければ1年間に渡ってテアトル・エコーの劇団員と共にブラッシュアップをしながら上演までの一連のプロセスを体験できます。

直近に開催された「エコラボ創作戯曲募集2024」ではしらいしえりこさんの「次期町内会長どの!ver.2」がノミネートされました。

詳細についてはこちらのリンクから確認できます。

NLTコメディ新人戯曲賞(劇団NLT)

一口に新人戯曲賞とは言っても日本劇作家協会が主催する「新人戯曲賞」以外にも新人戯曲賞があります。

それが劇団NLTが主催する、コメディ分野に特化した新人戯曲賞、「NLTコメディ新人戯曲賞」です。

「NLTコメディ新人戯曲賞」の応募に際して、ストレートプレイであれば現代劇から時代劇、舞台は国内外でも構いませんが、未上演作品に限ります。

今年で第10回目を迎え、直近の受賞作品に中川一美さんの『総理! 死んで貰います』(第7回、アイデア賞)、大田裕康さんの『我が友ドラキュラ』(第6回審査員特別賞)などがあります。

田畑実戯曲賞(人間座)

「田畑実戯曲賞」は劇団「人間座」が創立60周年を機に2017年から主催している戯曲賞で、今年で第7回を迎えました。

「田畑実戯曲賞」では現代演劇であれば誰でも応募できます。

また、「田畑実戯曲賞」が特徴的なのは既に上演されているものや他の戯曲賞に応募したものであっても一定の条件の下で応募できることです。

直近に開催された「第7回田畑実戯曲賞」では堤千尋さんの「G線上のいもうと。」が受賞作としてノミネートされました。

「台本」「脚本」「戯曲」の違いを正しく理解しよう

今回は「台本」「脚本」「戯曲」の違いについて解説してきました。

いずれの3つのキーワードも同じものと混同されることも多いですが、これを正しく理解しないと「戯曲と思って応募しようと思ったものが実は脚本だった」「脚本と思って応募しようとしたら台本だった」などの事態になりかねません。

最後にもう1回整理しましょう。

  • 台本は役者のためにセリフやト書きを書いたもの
  • 脚本は監督やスタッフなどのためにセリフやト書きに加え、シーンの背景や状況などを詳細に書いたもの
  • 戯曲はセリフやト書きなどを文学作品としての体で書いたもの

上記の違いを正しく理解した上で「台本」「脚本」「戯曲」のうち、どの分野で挑戦したいのか考えるといいでしょう。

その上で脚本や戯曲の様々な賞などに挑戦してみるのもおすすめです。

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