演劇をやっている人、あるいはコミュニケーションやグローバル理解などを大学などで学んでいる人は、『わかりあえないことから──コミュニケーション能力とは何か』(講談社現代新書)を聞いたことがあるのではないでしょうか?
多くの企業や教育関係者から注目されている本です。
今回は、その平田オリザさんの著書『わかりあえないことから』の簡単なまとめと、オススメの理由を紹介します。
書誌情報
タイトル: わかりあえないことから──コミュニケーション能力とは何か
著者: 平田オリザ
出版: 講談社現代新書(2012年)
受賞: 新書大賞2013 第4位
著者・平田オリザとは?
平田オリザは1962年東京生まれの劇作家・演出家・大学教授です。
国際基督教大学在学中に劇団「青年団」を結成。現代口語演劇理論を確立し、戯曲『東京ノート』で1995年に第39回岸田國士戯曲賞を受賞しました。
大阪大学コミュニケーションデザイン・センター教授(執筆当時)を経て、現在も芸術文化観光専門職大学の学長を務めるなど、演劇のみならず教育・行政の分野でも幅広く活躍しています。
本書の概要
【新書大賞2013第4位】 日本経団連の調査によると、日本企業の人事担当者が新卒採用にあたってもっとも重視している能力は、「語学力」ではなく、「コミュニケーション能力」です。ところが、その「コミュニケーション能力」とは何を指すのか、満足に答えられる人はきわめて稀であるというのが、実態ではないでしょうか。わかりあう、察しあう社会が中途半端に崩れていきつつある今、「コミュニケーション能力」とは何なのか、その答えを探し求めます。
講談社現代新書 帯文より
1分で理解する本書のエッセンス
- 現代の企業が求めるコミュニケーション能力は「ダブルバインド(二重拘束)」状態にある。「協調性」を持ちつつ「主体性」も発揮せよという、矛盾した要求
- 本当のコミュニケーション能力とは「異なる文化・価値観を持つ人と関わる力」=社交性であり、同質的な人と「察し合う」協調性とは別物
- その能力を磨くには、演劇のワークショップ的な「役を演じる経験」が極めて有効
- これからの教育は「協調性から社交性へ」シフトしていく必要がある
本書の章立て
- 第一章: コミュニケーション能力とは何か?
- 第二章: 喋らないという表現
- 第三章: ランダムをプログラミングする
- 第四章: 冗長率を操作する
- 第五章: 「対話」の言葉を作る
- 第六章: コンテクストの「ずれ」
- 第七章: コミュニケーションデザインという視点
- 第八章: 協調性から社交性へ
各章の見どころ
第一章「コミュニケーション能力とは何か?」
新卒採用で求められる「コミュニケーション能力」が、企業の側でも実は曖昧に運用されている現状を解きほぐします。「グローバル化」「即戦力」「主体性」というキーワードの裏で、若者が抱えるダブルバインドを丁寧に描き出します。
第二章「喋らないという表現」
演劇の現場でよく使われる「沈黙の表現」を題材に、コミュニケーションが「話す」だけではないことを論じます。間、表情、距離など、非言語の要素がいかに重要かを実例豊富に解説しています。
第三章「ランダムをプログラミングする」
現代口語演劇理論の核となる考え方が紹介されています。「現実は予定通りに進まない」という前提を、舞台上にどう設計するか。平田氏ならではの演出論が読みどころです。
第四章「冗長率を操作する」
会話の中で「無駄に見える部分」が、実は人間関係を成立させていることを論じる章。コミュニケーションの「冗長性(リダンダンシー)」の役割が、演劇の例を通して説明されます。
第五章〜第八章
後半では「対話」と「会話」の違い、コンテクスト(文脈)が異なる人とどう関わるか、教育現場における演劇ワークショップの意義、そして「協調性から社交性へ」というキーフレーズに沿って、これからの社会に求められるコミュニケーションのあり方を提示しています。
圧倒的に支持されている理由
本書が新書大賞4位というベストセラーになり、長年読み継がれている理由をいくつか挙げてみます。
- 「もやもや」を言語化してくれる: 就活生・若手社会人・教師など、コミュニケーションに違和感を抱いている人の「言葉にならない不安」を、平田氏は明確に言語化しています。
- 演劇の現場知から導かれる説得力: 抽象論ではなく、舞台で俳優と向き合ってきた具体的な経験から書かれているため、リアリティがあります。
- 教育現場で実用できる: 学校・大学・企業研修で「演劇的アプローチ」を導入するきっかけになる視点が満載で、教育関係者の必読書になりました。
- 新書なのに何度も読みたくなる: 1回読んで終わりではなく、自分の立場(学生・教師・経営者・俳優など)が変わるたびに読み返したくなる深さがあります。
こんな人におすすめ
- すべての教育関係者(学校教員・大学教員・教育行政関係者)
- 演劇を学んでいる人、演劇を社会で活かしたい人
- 企業の人事・研修担当者
- 就活で「コミュニケーション能力」と言われてピンとこない学生
- 子どもの教育・進路に悩む保護者
- 「日本人なのに会話が苦手」と感じている社会人
まとめ
『わかりあえないことから──コミュニケーション能力とは何か』は、演劇を通して見えてくる「現代日本のコミュニケーション論」を、平易な言葉で展開した名著です。
「わかりあう」ことを前提とせず、「わかりあえない」ところから出発するという視点の転換は、演劇に関わる人だけでなく、日々のコミュニケーションに迷うすべての現代人に響くはずです。
演劇のワークショップに興味がある方は、当サイトの名前を覚えるためのワークショップ紹介もあわせてご覧ください。

