「戯曲を読んでみたいけど、何から手を出せばいいの?」
「いきなりシェイクスピアやチェーホフは難しそう…」
戯曲(演劇の脚本)は小説とは違った独特の読み味があり、敷居が高く感じる方もいるかもしれません。でも実は、現代日本にも初めての一冊にぴったりの戯曲がたくさんあります。
今回は、戯曲ビギナーが「読んでよかった」と思える、入り口として最適な戯曲3作品を紹介します。
戯曲とは?
戯曲とは、演劇を上演するために書かれた台本のことを指します。小説と違って、登場人物の台詞と、場面や動きを示す「ト書き」だけで構成されているのが特徴です。
小説と戯曲の違い
| 項目 | 小説 | 戯曲 |
|---|---|---|
| 地の文 | あり(心情・情景の描写) | なし(ト書きのみ) |
| 心情表現 | 地の文で内面を語れる | 台詞・行動で見せる |
| 読むスピード | じっくり読める | サクサク読める(1〜2時間で1作品) |
| 余白 | 言葉で埋める | 読み手の想像が必要 |
戯曲のいいところは、短時間で1作品を読み終えられることと、想像力を働かせる楽しみがあるところです。読みながら頭の中で舞台を立ち上げるのが、戯曲を読む醍醐味です。
はじめて読むのにおすすめの戯曲3選
「読みやすさ」「面白さ」「戯曲ならではの体験ができるか」という3つの観点で選んだ3作品を紹介します。
1. 三谷幸喜『笑の大学』
「とにかく笑える戯曲を読みたい」という方の第一冊にうってつけの一作。
1994年初演。三谷幸喜が主宰した東京サンシャインボーイズ第18回公演として上演されました。三谷自身が「ぼくの代表作」と語る人気作です。
舞台は太平洋戦争前夜の昭和15年。喜劇作家・椿一(つばき はじめ)が、警視庁の検閲係・向坂睦男に呼び出され、自身の喜劇台本の検閲を受けることになる、というところから物語が始まります。
登場人物はたった2人。台詞のやりとりだけで物語が動き、笑いと感動が積み上がっていく、まさに「戯曲の構造美」を体感できる作品です。
映画化(2004年、稲垣吾郎・役所広司主演)もされており、映像と読み比べる楽しみもあります。
こんな人におすすめ: 喜劇・コメディが好き、二人芝居の妙味を体感したい、エンタメ性の高い戯曲から入りたい
2. 別役実『マッチ売りの少女』
「不条理劇って何?」と興味を持った方の入り口に。
1966年初演。日本の不条理劇のパイオニアと呼ばれる別役実の代表作のひとつで、岸田國士戯曲賞を受賞した記念碑的作品です。
戦後のある冬の夜、老夫婦のもとに見知らぬ女が訪ねてくる、というシンプルな入りから、徐々に現実と空想の境界が崩れていく独特の世界に引き込まれていきます。
アンデルセン童話の『マッチ売りの少女』をモチーフにしながら、戦後日本の傷跡や記憶、家族の不在をテーマに据えた、短いながらも濃密な一幕劇です。
サミュエル・ベケットらに影響を受けた不条理劇の系譜にあり、サミュエル・ベケットの生涯と代表作もあわせて読むと、より深く楽しめます。
こんな人におすすめ: 不条理劇に興味がある、短い戯曲で深い余韻を味わいたい、日本の現代演劇の流れを掴みたい
3. 平田オリザ『東京ノート』
「現代日本の演劇」を理解するなら絶対に外せない一作。
1994年初演。第39回岸田國士戯曲賞受賞作で、平田オリザが提唱する「現代口語演劇」の代表作です。
舞台は近未来のヨーロッパでの戦争を背景に、東京のとある美術館のロビー。フェルメール展に集まった人々が、それぞれの事情を抱えながら淡々と会話を交わします。
大きな事件は起きません。けれど、複数の会話が同時進行で重なる「重層的な会話」の中から、登場人物それぞれの人生と時代の空気が浮かび上がってきます。
「演劇とは、何気ない日常の中にこそドラマを宿せる」ということを体現した一作。一見地味でも、読み返すたびに新しい発見があります。平田オリザの考え方は『わかりあえないことから』もあわせて読むとさらに理解が深まります。
こんな人におすすめ: リアリズムの演劇に触れたい、台詞の重なりや沈黙の意味を考えたい、現代日本の演劇の流れを知りたい
3作品を読む順番のおすすめ
3作品とも独立して楽しめますが、もし順番に悩むようなら次の順がスムーズです。
- 三谷幸喜『笑の大学』→ 戯曲のリズムと面白さを体感
- 別役実『マッチ売りの少女』→ 戯曲の余白と象徴性に触れる
- 平田オリザ『東京ノート』→ 戯曲の現代性とリアリズムを味わう
この3作品を読み終えるころには、「戯曲ってこんなに表現の幅があるんだ」と実感できるはずです。
戯曲を読み終えたら
3作品を読んでみて演劇に興味が湧いたら、次のステップに進んでみましょう。
- 実際に観る: 戯曲が舞台化されるときに観劇するのが一番。映像配信サービス観劇三昧を活用するのもおすすめ
- 自分でも書いてみる: 演劇の脚本の書き方を参考に、初めての戯曲を書いてみる
- 戯曲賞を追う: OMS戯曲賞の受賞作を読むと、最先端の戯曲表現に触れられる
- 戯曲を学ぶ: ストアカで脚本(シナリオ)を学ぶでオンライン講座を活用
まとめ
はじめて読むのにおすすめの戯曲3選を紹介しました。
- 三谷幸喜『笑の大学』- 二人芝居の妙味と笑いの構造
- 別役実『マッチ売りの少女』- 不条理劇の傑作と余白の美学
- 平田オリザ『東京ノート』- 現代口語演劇の代表作
どれも1〜2時間で読み終えられる長さなので、週末に一冊ずつ楽しんでみてはいかがでしょうか。
戯曲は読むことで「もう一つの楽しみ方」が見つかる、奥深い世界です。あなたの戯曲ライフが豊かなものになりますように。

